この記事では、変圧器更新の際に発注者として気を付けるポイントを解説します。
小容量の場合
上の図は私が変圧器を更新する際に、注視しているポイントになります。それぞれの点について解説していきます。
①端子間の距離
更新の場合、ケーブルを転用することがあります。ケーブル転用では、ケーブルの端末はそのままになることが多いので、端子間の距離を確認しておかないと必要以上に端子同士が近くなり、短絡などの自己につながる恐れもあります。
既設と同等以上の距離が確保できるようにしましょう。
特に、二次側電圧が低い変圧器ではケーブルが太くなるので要注意です。
②アンカーピッチ(固定用穴のピッチ)
変圧器の固定にはアンカーで固定することもあります。特に屋外変圧器ではよく見かけます。
更新の際には、
- 固定用のアンカーをそのまま流用する
- 新たに打ち直す
の2パターンです。
流用する場合には、既設と同じ寸法になっていないといけません。
新たに打ち直す場合、既設のアンカーと近すぎるとうまく打ち直すことができないため、50mm以上は余裕が欲しいです。
足回りの寸法は多少の自由が利くので、必ず確認し問題がある場合には、メーカーと相談しましょう。
③端子までの高さ
変圧器の高さは、一昔前と比べ高くなる傾向にあります。
これは、足回りを変更せずに高効率のものを作ろうとするため、容積を確保するために上方向に大きくするしかないんだとか…
高さが高くなると何が起こるかというと、ケーブルの長さが足りなくなります。
つまりケーブルを新たに引き直す必要が生じてしまい、更新費用の高騰につながるのです。
回避方法としては、銅バーなどで高さを調節しケーブルを流用できるようにします。
④外形寸法
昔に比べ横幅については小さくなっていることが多いので、問題になることは少ないです。
しかし、増改造により変圧器の搬入、搬出経路が狭くなっている場合には要注意です。
⑤端子の形状
変圧器端子がLのようになっていますが、古いものではLを90度回転させたような形状のものもあります。
ケーブルには癖があり、太いケーブルになるほど自由が利かなくなります。そのため、端子の形状が異なる場合、ケーブルをうまく接続できない恐れがあります。
⑥電圧とタップ値
一次側、二次側の電圧は書き間違えでもない限り心配はないと思いますが、タップ値については再検討が必要な場合があります。
変圧器を設置してから30年以上経過していることが多いと思うので、負荷が増えていると予想されます。二次側の電圧を確認し、規定値以内に収まっているか確認しましょう。
⑦総重量
変圧器を移動させる際にはクレーでつる必要があります。適切なクレーンの手配のためにも、重量の確認は必須です。
⑧採油弁
変圧器の劣化診断のために、絶縁油を採油しガス分析やフルフラール分析を行います。
採油弁がついていないタイプや閉止フランジで止められていると採油の作業が大変です。そのため、コック付きの採油弁をあらかじめ取り付けておくと保全作業が楽になります。
⑨その他(+αの要素)
- 絶縁紙の種類、使用量
変圧器の寿命診断であるフルフラール分析には初期の絶縁紙の重量が必要になります。また、絶縁紙には耐熱絶縁紙と呼ばれるものもあり、これは通常のフルフラール分析ではうまく余寿命診断ができません。そ以上のことから、絶縁紙の情報は必要になります。 - 中性点接地方式
高圧変圧器の二次側(低圧側)にはB種接地が必要になります。
Y結線:中性点
Δ結線:低圧側の1相(S相が一般的) - 励磁突入電流
変圧器更新の際には、保護継電器の整定値も一緒に見直すようにしましょう。
高効率になっている分、抵抗が少ないので励磁突入電流も大きくなっています。
保護継電器の不要な誤動作を回避するためにも、事前に見直してくことをお勧めします。 - %インピーダンス
短絡電流の大きさにもろに影響してくるのでなるべく現状と同じくらいになるようにメーカーへ依頼しましょう。 - ダクトの寸法
高圧変圧器は充電部が露出しないようにダクトで覆うことがあります。
この場合は、ダクトの寸法もよく確認しておきましょう。周囲のものが干渉し取付ができない等無いように現場も確認しておきましょう。
中容量の場合
1,000kVA以上の中容量変圧器でも確認するポイントはほとんど同じです。ここでは、容量が大きくなった場合にのみ異なる点だけをピックアップして紹介します。
無電圧タップ切替ハンドル(NVTC)
容量の大きな変圧器になってくると、
- 絶縁油の劣化を防ぐため窒素密封が多いこと
- タップ切り替え機が重い
などの理由から、変圧器上部に無電圧時にのみ操作可能なタップ切替ハンドルがついています。
注意点としては、絶縁油が劣化してくるとスラッジと呼ばれる絶縁紙などの解けカスのようなものがたまっていきます。長期間タップを操作を行わないと、タップの部分にスラッジがたまり、停電でタップ変更をしたときなどに接触がうまくいかず過熱を引き起こすことがあります。
定期的にタップを回してタップ部分にゴミがたまらないように管理することが大切です。
500kVAより大きい変圧器では、無電圧タップ切替ハンドルが主流となっています。しかし、事故事例も多いため管理には十分な注意が必要です。
混色防止板の接地
混色防止板を設ける場合、混色防止版用の接地端子台がある場合と、変圧器内部で筐体と接続され、筐体と一括でアースに落とす場合があります。
一体となっている場合は、A種接地に接続すればよいですが、別々に端子接続とする場合、配線工事が必要になることもあるのよく確認しておきましょう。
バスダクトとの取り合い
変圧器更新の際、一番大変なのがバスダクトとの取り合いです。バスダクトと変圧器を一緒に更新してしまえば、注意点は盤との取り合いだけなので、設計はかなり楽ですが、既設のバスダクトを転用する場合、少しでも寸法がずれると、取り合いができなくなってしまいます。
停電時間も限られているため、たいてい一発勝負です。ミスが許されないため何度も確認しておく必要があります。
胃の痛くなる思いをする日々が続くので、できることなら二度とやりたくない工事です。
まとめ
本気でいいものにしようと思ったら、各局のところ図面に描かれているものは全て確認することになります。
せっかく携わるならいいものに仕上げたいですよね。こだわりを持って設計すると楽しいですよ!
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