今回は、実際に私が経験した産業用電気ヒーターのトラブル事例を紹介します。
この記事を読んで、同じようなトラブルが少しでも減ってくれればと思っています。
トラブルの概要
定期整備期間が終了し、工場の稼働開始から2週間後に製造部門よりヒーター温度が設定値まで上昇しないと報告を受けました。
- 電源ケーブルの接続不良 → 対策:接続部の増し締め
- 電圧不足 → 対策:定格電圧を印加する
- 端子箱内配線部品の損傷 → 対策:調査及び不良部品の交換
- ヒーター断線 → 対策:ヒーターの交換
- 温度調節系統の不良 → 対策:温調計やSSC、電力調節計などの調査及び交換
- 流量過大 → 対策;流量の調節
- 保温不良 → 対策:保温の調査及び再施工
現場到着後、運転中の電気ヒーターの各相の電流値をクランプメーターで測定を行ったところ三相の電流バランスが崩れていることが分かりました。
また、制御盤からは100%出力の指令が入力されているにも関わらず定格電流の半分ほどしか電流が流れていないことからヒーターの断線を疑い、機器の停止を依頼しました。
ヒーターエレメントの断線確認のため端子箱を開けようとした際、端子箱が異様に加熱されていることに気づき、単なる断線ではないと覚悟したところ端子箱内部で過熱が発生しケーブルなどが焼損していることが発覚しました(写真1)。
定格電流 | 実測電流値 | 正常時の線間抵抗値 | 事故時の線間抵抗値 |
57.7 A | 40.2 A | u-v間 7.8Ω | u-v間 16.0Ω |
57.7 A | 30.3 A | v-w間 7.8Ω | v-w間 16.0Ω |
57.7 A | 30.8 A | w-u間 7.8Ω | w-u間 16.0Ω |
担当者に確認したところ、定期整備期間にヒーターエレメントで断線がないか確認をするために接続バーを一旦すべてばらして抵抗測定を実施したことが分かりました。焼損が発生した原因は復旧の際に、端子の締め付けが不十分だったことによる過熱だろうと推測されます。
復旧と対策
【復旧】
・当該機器の予備を所持していたため、予備機と交換
・締め付け不良防止のためヒーターターミナル端子部分の増し締め及び、ケーブル接続部分のトルク確認
【対策】
・当該機器はスタットボルト式の端子であるため、結線作業はトルク管理を確実に行うこととした
・ケーブル結線後に線間の抵抗を測定し、異常な数値がないかの確認を行うことにした
・通電後にサーモグラフィで端子箱の過熱がないか確認を行う
端子箱表面温度が50度を超える場合には蓋を開けて内部の確認まで実施する。
※CVケーブルの被覆材のビニルが耐熱温度60度のため。
シーズヒーターの仕組み
電気エネルギーを利用した過熱には抵抗加熱、誘導加熱、アーク・プラズマ加熱、マイクロ波・高周波誘導加熱、赤外・遠赤外過熱、ヒートポンプなどが存在します。今回トラブルのあった「シーズヒーター」は抵抗加熱の仕組みを利用したものです。
抵抗加熱とは、タングステンやニッケル・クロムなどからなる発熱体に電流が流れることで発生するジュール熱\( \left( Q=RI^2t \right) \)を利用します。
シーズヒーターは、円筒形のメタルシースの中心にコイル状の発熱体が仕込まれており、メタルシース内部は絶縁材の「酸化マグネシウム」を高圧圧縮して充填した構造となっています(図1)。ターミナル端子へ通電することで発熱体がジュール熱を発生し、酸化マグネシウムを介してメタルシースへ熱伝導し加熱しています。シース(被覆)材には、鋼やステンレス、アルミが使われ、使用条件に合わせて選択することが可能です。
電流のアンバランスが生じた理由
端子箱内部を確認した際に、2か所で断線が確認されました。(写真2)
通常時にはヒーターエレメントが4本並列接続された状態になっており、端子間での実測抵抗値は約8Ωとなっていました。ヒーターエレメント1本当たりの抵抗の大きさは、
$$ \begin{align} R &= \left( \frac{1}{r} + \frac{1}{ r + r } \right)^{-1} = \frac{2}{3}r \\ 8 &= \frac{2}{3} r \\ r &= \frac{3}{2} \times 8 = 48 \end{align} $$
以上の様に1本当たりの抵抗が48[Ω]と求めることができます。したがって、4本並列接続されている場合には、12[Ω]となります。一方、写真2の様に断線が生じた状態でのヒーター回路は図2の様になります。
この時の電圧、電流のベクトル図と回路の各点を電圧、電流は図3の様にあらわすことができる。端子間の電圧は400Vとし、線間電圧\(\dot{V}_{uv}\)を基準ベクトルとすると各電流\(\dot{I}_{uv} , \dot{I}_{vw} , \dot{I}_{wu} , \dot{I}_u , \dot{I}_v , \dot{I}_w \)は次のように計算できます。
各相間に流れる電流の計算
$$ \begin{align} \dot{I}_{uv} &= \frac{V_uv}{16} = \frac{400}{16} = 25 \rm[A] \\ \\ \dot{I}_{vw} &= \frac{400}{32} \times \left( \cos \frac{4}{3}\pi + j \sin \frac{4}{3}\pi \right) \\ & = 12.5 \left( -\frac{1}{2} -j \frac{\sqrt{3}}{2} \right) \rm[A] \\ \\ \dot{I}_{wu} &= \frac{400}{16} \times \left( \cos \frac{2}{3}\pi + j \sin \frac{2}{3}\pi \right) \\ &= 25 \times \left( -\frac{1}{2} + j \frac{\sqrt{3}}{2} \right) \rm[A] \end{align} $$
各線に流れる電流の計算
$$ \begin{align} \dot{I}_u &= \dot{I}_{uv} – \dot{I}_{wu} \\ &= 25 – 12.5 \left( -\frac{1}{2} -j \frac{\sqrt{3}}{2} \right) \\ &= 37.5 – j12.5\sqrt{3} \\ \vert \dot{I}_u \vert &= \sqrt{ \left(37.5 \right)^2 + \left( 12.5\sqrt{3} \right)^2 } \approx 43.3 \rm[A] \\ \\ \dot{I}_v &=\dot{I}_{vw} – \dot{I}_{uv} \\ &= 12.5 \left( -\frac{1}{2} -j \frac{\sqrt{3}}{2} \right) -25 = -31.25 -j 6.25\sqrt{3} \\ \vert \dot{I}_v \vert &= \sqrt{ \left(-31.25 \right)^2 + \left( 6.25\sqrt{3} \right)^2 } \approx 33.0 \rm[A] \\ \\ \dot{I}_w &=\dot{I}_{wu} – \dot{I}_{vw} \\ &= 25 \left( -\frac{1}{2} +j \frac{\sqrt{3}}{2} \right) -12.5 \left( -\frac{1}{2} -j \frac{\sqrt{3}}{2} \right) \\ &= -6.25 +j18.75\sqrt{3} \\ \vert \dot{I}_w \vert &= \sqrt{ \left(-6.25 \right)^2 + \left( 18.75\sqrt{3} \right)^2 } \approx 33.0 \rm[A] \end{align} $$
以上の結果から、おおむね実測値と同じような値が導かれました。この計算の考えはヒーターの断線警報の整定値を決定する際にも応用することができます。
接触不良による過熱
今回の事象が発生した機器と同様のものが工場では他に3台ほどあったため、トラブルの横展開として調査を行いました。すると、他機器でも似たような現象が発生している機器がありました…泣
サーモグラフィを使用して過熱部を測定したところ約360℃を示しており、配線の被覆やキャップも若干のダメージを受けているのが一目で確認できました。
また、他のサイトで接触不良による過熱についての実験結果が記されていました。掲載されている実験では締め付け不十分の場合、通常時と比較し70℃以上も温度上昇がみられるという結果でした。
まとめ
今回は、フランジタイプのシーズヒーターの端子部分で締め付け不良による焼損が発生しました。スタットボルト式の端子の場合、結線の際にボルトの折損を恐れてトルクが不十分になってしまうケースがまれにあります。
そのため、工事管理する側はトルクレンチを使用するなどして締め付けが十分になされているかを確認しておくことが重要です。施工者任せにせず最後は自分自身で確認することが大切だと改めて感じさせられるトラブルでした。
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