【解説】磁石の力が働く空間(磁界)と磁束

目次

磁力とは

磁石は、鉄などを引き付けることはよく知られていると思います。この磁石が鉄などを引き付ける力を「磁力」といい、磁石の両端(磁極)で最も強くなります。

また、鉄などが磁石にくっつくと鉄も磁石のような働きをします。このような現象を「磁気誘導」と呼びます。

磁力は、離れた位置に置かれている鉄にも働くため、磁石の周りには磁力の働く空間が存在すると考えることができます。この、磁力の働く空間を「磁界(または磁場)と呼びます。

磁場と磁界の違い

「磁場」と「磁界」はどちらも、磁力の働く空間を指す言葉で、意味に違いはありません。
しかし、一般的に物理学の分野で”磁場”と呼び、電気工学の分野では”磁界”と呼んでいます。

磁力の性質

磁力は、同じ極同士は反発し、異なる極同士は引き合う性質があります。

磁力の大きさ \(F\ \rm N\) は、2つの磁極部分の磁荷をそれぞれ \(m_1\ \rm Wb\) ,\(m_2\ \rm Wb\) 、磁極間の距離を \(r \ \rm m\) 、透磁率を \(\mu\ \rm H/m\) とすると、

\( F = \displaystyle \frac{m_1 \times m_2}{4 \pi \mu r^2} \)

と表されます。透磁率は物質によって固有の値であるため、分母の \(4 \pi \mu\) は物体が決まれば一定の値にあるため比例定数 \(k_m\) で以下のように表す場合もあります。

重要公式

\(\begin{align} F &= \displaystyle \frac{m_1 \times m_2}{4 \pi \mu r^2} \\ \\ &= k_m \times \displaystyle \frac{m_1 \times m_2}{r^2} \end{align} \)

よしき

磁力の大きさを表す式は、静電気の分野で学習する静電気力(クーロン力)の公式と同様の形になります。

透磁率とは?

透磁率とは、物質ごとの磁力線の通しにくさを表しています。

記号:\(\mu\)
読み方:ミュー

単位:\(\rm H/m\)
読み方:ヘンリー毎メートル

真空中の透磁率 \(\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7}\) を基準と考えます。また、ある物資の透磁率 \(\mu\) と真空の透磁率との比率を比透磁率 \(\mu_r\) といい、以下の関係式で表せれます。

\( \mu = \mu_r \times \mu_0 \ \rm H/m \)

磁界の様子の表し方

磁界の様子を知るために、磁石の周りに方位磁針を並べると、方位磁針のN極はそれぞれ、ある決まった方向を向きます。方位磁針のN極どうしをつないでいくと、「磁界の様子」を見ることができます。

磁界の様子を表した線のことを「磁力線」(じりょくせん)といいます。

磁力線には次のような性質があります。

磁力線の性質
  1. 磁力線はN極から出て、S極に入る
  2. 磁力線が交わることは無い
  3. 磁力線は磁極から垂直に出て、垂直に入る
  4. 磁力線の密度と磁界の強さは一致する

磁束とは?

先ほど学習した「磁力線」は周囲の透磁率の影響を考慮した磁界の様子を表すものです。しかし、理論的な学習を進めていく過程では、周囲の影響を考慮しない方が、スムーズに考えられる場合もあります。

そこで生まれたのが、「磁束」(じそく)という考え方です。

磁束は、磁力線と同様に磁界の向きや様子を表していますが、「周囲の透磁率の影響を考慮しない」「実質中も通過すると考える」という2点が大きく異なっています。

磁束という考えを使う理由

以下の現象を例に、磁力線と磁束の考え方の違いについて解説します。

(例)磁力を強めるために、磁石を鉄など透磁率の大きい物質で覆う

磁力線で考えたとき

磁力線の本数は以下の式で求めることができました。

\( 磁力線 = \displaystyle \frac{磁極の大きさ}{4 \pi \mu r^2} \)

磁石を鉄で覆うと、磁力が強くなるので、この現象を「磁力線」を使って表そうとすると上図のように、磁石から出る「磁力線」の数が増えることになります。

磁石と鉄の表面積がほとんど同じだと仮定すると磁力線の密度も大きくなるので、磁力が強くなったといえます。しかし、実際に、磁石単体からでる「磁力線」の本数が増えたのでしょうか?…

突然、鉄を通ると磁力線が増えると考えると違和感を感じてしまいます。

磁束で考えたとき

磁束は物質の透磁率の影響を受けないため、本数は変化しません。しかし、磁石を鉄で覆うことで実際に磁力は強くなります。

このことから、磁石から出る「磁束」の本数は変わらず、鉄で覆うことによって、あちこちに分散していた「磁束」が収束され、鉄の内部を通り、鉄の表面から出るので、鉄表面の「磁束」の本数が増えたように見えると考えます。

磁束で考える方が突然本数が変化した「磁力線」の時よりも現実的な説明に思えます。

このことから、電磁気の分野では、「磁力線」よりも「磁束」を用いて考えることが多いです。

したがって、今後、磁界の強弱を考える際に磁束の密度(磁束密度)(記号:\(B\) , 単位:\(\rm[T]\) テスラ)を使います。

\( \begin{align} 磁束密度 &= \displaystyle \frac{磁束\ \rm Wb}{面積\ \rm m^2} \\ \\ B &= \displaystyle \frac{\phi}{A} \end{align} \)

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この記事を書いた人

中学校教師から電気エンジに転職し現在は66kV/155MWの工場で電気主任技術者として活動中です。
電験3種、電験2種を独学で合格した経験から、初心者がつまづきやすいポイントをどこよりもわかりやすく解説する電験ブログを目指して活動しています。
2023年より、電験三種のオンライン家庭教師も始めました!
目標は、電気監理技術者と独立し、年収1000万以上を達成することです。

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